2012年11月01日 配信

マウンドに立った君がいつもより大きく見えたのは気のせいなんかじゃない。エースナンバーを背負って、後ろで守るチームメートの視線をいっぱいに受けても君は堂々とそこに立ち、バッターボックスを見つめている。

君がやりたいと言い出すまで僕は単なる“野球ファン” でしかなかった。君とキャッチャーボールをはじめ、バットを振って、君と一緒になって走った。こんなことなら昔から野球をやっていればよかったと思ったこともあったけれど、君と一緒に泥だらけになれることが何よりも楽しくうれしかった。

君が投げたボールがいい音を立ててミットに吸い込まれた。宙を切るバットを合図に仲間からの大声援が沸いた。ボールが続くと君を励ます声が次々に上がる。

今の君には仲間がいるね。一緒に成長していける大事な仲間が。

でも寂しくなんかないさ、たぶん。

試合が終わった君は観客の中から僕と妻の姿を見つけると、「おおっ、父ちゃん」と手を振った。仲間がいる前では僕のことを“父ちゃん”と呼ぶ。家の中では今だって“パパ”っていうくせに。

「今に“オヤジィ” になるかもね」と妻は笑った。

“父ちゃん”でも“オヤジ”でもいい。

どんなに大きくなっても、立派になっても家に帰ってきた時だけでいいから“パパ”って呼んでくれないかな。

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◇深澤 竜平
昭和52年、山梨県生まれ。

2006年、船橋市に転居し翌年から小説創作を開始する。

2011年 「応援席のピンチヒッター」にて「第23回船橋文学賞」文学賞を受賞。

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