2012年07月01日 配信

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「今日はあまり泳げなかったの」「あらどうして」「だってあまり口が開けられないんですもの」スポーツジムのサウナはいつもの緩やかな雰囲気。

「口開けなかったら苦しくて泳げないでしょう」「そうなの。でも私ね、昨日部分入れ歯を入れたのよ。落ちたらどうしよう。恥ずかしいでしょ。そう思ったらすっかりリズムも狂ってしまって」と言いつつその人はフフと笑った。

思わず耳ダンボ状態の私もこっそりフフと笑ってしまった。シニアのためのスイムスクールはかなりの盛況で初級から上級まで各クラスに個性豊かな男女が参加している。

海水浴もプールも大好きなのにまったく泳げなかった私。過去何回も挑戦してその度に挫折した。

再就職も、転職も、そして車の運転もいつだってなんとかクリアしたのに水泳だけは難攻不落の壁であったが再度の一念発起。

七十歳を前にしてなんとかクロール、背泳、平泳ぎで二十五メートルは泳げるようになった。人間はかなりの年齢まで進歩するなと少し心に手ごたえを感じているこの頃。

けれどもひそかに笑いながらずしんと傷ついてもいた。のどかなおしゃべりは、かつてプールで総入れ歯を落とした人がいてスクールを中断。

コーチが総出して水底を捜索。もちろん見つかったのだが、当事者になったその女性はその後スクールを止めてしまったと続いた。ほんわかとした残酷な物語。

そう、歯の欠損は思い以上のダメージだ。それは一気に年齢の重さを突き付けてくる。

つい最近経験している私にとって他人ごとではない話題であったのだ。

年齢的ショックはある時から浜辺の波のように打ち寄せてくる。初めて近所の子供たちから「おばさん」と呼ばれた日。「おばさん」て、誰、誰とまわりを見回して自分以外にいないのだと納得を迫られる経験。

目じりのしわやほほのシミ。二の腕のたるみにノースリーブをあきらめた夏。バストの高さにひそやかな悲しみを覚えてしまった秋の日。生物的にはっきりとそのことを知らされる季節。たいていの女性たちは次々に起きてくる試練を乗り越えて、いつしか「そう、もう私は若くはない」と心に噛みしめる。そして若くはないけれど不幸せではないという道を探す旅に出る。

一時間のレッスンで程よく疲れた体を温めて外に出れば、緑の風が日の光の中を颯爽と駆け抜けていた。

【筆者プロフィール】
砂田 清子
山梨県出身
昭和50年船橋市に転居、同年 東京新聞ショッパー社 編集記者
53年春から東武百貨店船橋店勤務 広報主幹
平成9年 船橋市教育委員に就任 2期8年
県立学校改革推進プラン検討委員会委員 
船橋地域福祉 介護 医療福祉推進機構理事他 
著書に「素敵人生」「40代こころ風景97」「悩まないで考えて」
「僕 おじいちゃん大好き」

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