2009年02月01日 配信

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千葉県立船橋豊富高等学校 教諭 篠﨑正明

人の縁とは恐ろしいもので、9年前までは県立船橋高校で、地理歴史・公民科の授業を担当していた私が、今は「福祉科」という思いもかけない教科を担当している。しかも、5年前、福祉科の授業が始まる頃から、母親の認知症が進行して、それこそ教科書通りの事態が進行するのを目の当たりにしている。文字通り、身を以て母が教えてくれる「福祉」・「介護」・「認知症」をネタにして授業を進めるというのは、申し訳ないような、しかし、有り難く使わせてもらうことこそが、本人の本来の意志にも適うことのような、複雑な気持ちにもなる。また時々は、実の母親の介護を、専門家とはいえ、赤の他人にお願いして、こんなことをしている場合ではないような気にもなる。現在の制度が、利用者とその家族による介護費用の一部負担を前提にしている以上、「仕事を辞めて介護に当たる」ことが、必ずしも安定した継続的介護につながらないことも、分かってはいるのだが…。

 

船橋豊富高校では2009年3月、福祉コース第4期生を送り出す。これまで、第3期生までは、「介護員2級」の養成研修を修了して卒業させていたのだが、この第4期生以降は、特に資格を取らない形での福祉教育となっている。これは、本を正せば2004年に、厚生労働省が、「介護員」(この時の名称は「訪問介護員」)という資格を将来的に廃止し、最終的には国家資格である「介護福祉士」に統一するという方針を打ち出したことによる。

それでも、昨今の介護を担う人材不足の折り、資格という形ではないものの、基本的に第3期生以前と同様の授業内容で継続されている本校福祉コースの3年生に対しては、有り難いことに、いくつかの施設から求人の案内を頂くことが出来た。現在、数名が内定通知を受け取っており、この春からは介護職員として働かせて頂くことになっている。

 

ただし、本校では「普通科」の中の「福祉コース」であり、入学の時点では、特に学科としての「福祉科」の枠で募集している訳ではない。2年生から、学年5クラス中の1クラスに福祉コース選択者を集めて「福祉科」(教科としての福祉科)の授業を実施している。ごく大雑把に言うと、福祉コース選択者の半分が就職で、残り半分が大学や専門学校への進学、さらに分野としても、半分が福祉・医療・看護系の就職・進学を目指している。

だが、福祉科を担当して感じることだが、現在、介護・福祉サービスの提供者側としてだけではなく、サービスの利用者とその家族の側としても福祉教育の必要性は極めて高くなっている。私自身を含めて介護に関わる家族の多くは、思いがけず、突然その立場に置かれる。後から考えれば、また、改めて学んでみれば、「なぜあの時、気が付かなかったのか」と悔いることも多い。しかし、多くはマスコミを通じた、断片的な情報では、前もって然るべき心構えを持って事に当たることは難しかったとも思う。だからこそ、より体系的で本質的な福祉・介護に関する教育が必要なのだとも考える。そして、私自身、教員として福祉科に関わり、少なくとも、介護に従事する施設職員やホームヘルパーの方々の考え方が理解できたこと、これから何が起こるのか、ある程度の見通しが持てたこと等々、パニックに陥らずに済むための知識・理解、そして経験を得ることが出来たように感じる。今こそ「親の長生きを心から喜べる」ための福祉教育が必要とされているのである。

 

それにしても、こちらからお願いしながら、誠に申し訳ない言い方にはなるが、未熟過ぎる高校生達を、福祉・介護について多少の知識があるとはいえ、また、僅か3日間とはいえ、実習生として受け入れて下さる各特別養護老人ホームの職員・利用者の皆様には、いくら感謝しても感謝しきれない。しかも、学校内では必ずしも模範生とは言えない生徒に対しても、その長所を引き出し、やる気と自信を与えて下さることが多い。生徒達の欠点・短所を改善しようとする余り、生徒のやる気をそいでしまうことも多い教育の場に身を置いてきた私にとっては、新鮮な驚きですらある。ありのままの生き方を受け入れる所から全てが始まる福祉の世界の考え方こそが、彼らにとっては必要だったのかも知れない。

 

既に我が国の高齢化率は20%を超え、5人に1人は65歳以上の「高齢者」となっている。ということはつまり、4人で1人を支えることになる。イメージとしては、「騎馬戦」の形に近い。だが、少子化とはいえ、この支える側の4人の中には、年端もいかない「子供」が交じっていることも忘れてはならない。さらに22年後の2030年、現在の高校生が40歳前後の大人(「アラフォー」?)となり、社会を支える中心となる頃には、高齢化率は30%とも言われている。これは、ほぼ3人に1人は65歳以上の高齢者、ということを意味し、何と2人で1人を支える必要があることになる。これでは「騎馬戦」にもならない…。

 

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