2020年11月07日 配信

フルーツ加工品が教えてくれること in 船橋

船橋市内には、梨をはじめ、キウイやブドウ、イチゴといったさまざまな果物の生産者がいます。
おいしい果物を届けてくれる生産者に取材を続けていると、 市内にはそられの果物を使ったジャムが、多く製造・販売されていることに気づきました。
その背景には、私たちが知っておくべき、生産者と加工者の熱い思いがあったのです。


上)宮本にある「ル・カフェ・ドゥ・ポム」の「梨ブレッド」(200円)。梨のコンフィチュールを混ぜて焼きげる
下)市内梨農家「芳蔵園」が今年から販売を始めた梨ジュース

生産者を悩ます「売れない梨」

 梨生産者が梨を販売する際、果実にキズがついているなど見た目に難がある商品は、残念ながら市場への出荷や箱詰めでの販売ができない。千葉県が、いや、日本が誇る「船橋のなし」としての一定の品質を守るためだ。

 多くの農家は「規定外とされ、『食べられるけど売れない梨』が一定量発生することは当然のことと捉えている。けれど長い年月をかけて育ててきた梨を廃棄しなければならないというのは、正直つらいよ」と市内生産者の一人、加納芳光さんは話す。

 もちろん、キズが付いた梨は通常の梨と味が変わるわけでもなく、味は「船橋のなし」そのもの。しかし、皮をむく前の見た目が、きれいなものと比べると見劣りし、キズがある分、早く傷む梨となる。そうした梨を生産者は、「商品」にはならないと判断し、常連客にサービス品として提供したり、ただ廃棄することも少なくないという。

豊水に多く見られる「蜜症」    

 もうひとつ生産者を悩ませているのが、「蜜症(みつしょう)」と呼ばれる生理障害。蜜症は、リンゴや梨、特に「豊水」の品種に多く発生するという。症状が出ている梨は、人体に害はなく、梨自体は食べられる梨となるが、果実を切ってみると果肉の一部が水浸状となり、切ってしばらく経つと黒ずんでくる。その見た目もあって、一般の人には販売できず廃棄されるケースが多い。前出の梨農家「船芳園」(船橋市二和東2・6・1)の加納芳光さんによると「今年は蜜症が出たものが特に多かった。豊水の収穫ピーク時には、1日5ケース分、つまり150キロ分もの症状が出ている梨があった」という。

 県からも毎年「豊水」における密症発生割合の予測値が知らされるなど、各農家は普段から発生を極力抑えられるよう気を配りながら栽培しているが、昨今の異常気象の影響は大きいようだ。

 関係者によると、蜜症は、7月の気候が低温が続いた場合や長雨によって発症しやすいのだともいう。

 JAに加盟し、JAいちかわ船橋梨選果場に納められる生産者は「症状が出ている梨やキズがある梨などは加工用として買い取ります。その後、大手スーパーなどで販売されている梨ジュースやゼリーの原料、梨味の缶チューハイの梨汁に使われたりしています」と関係者。

 しかし生産者全員がJAに加盟しているわけではなく、前出の加納さんのように市内には個人でがんばっている生産者も少なくない。その場合は、自分で梨をなんとかしなくてはならない。

「廃棄ゼロ」を目指して生産者が立ち上がる


「芳蔵園」で今年作った梨のドライフルーツ。知り合いの梨農家に教えてもらった長野県の加工場で加工してもらったという。

 梨農家「梨の芳蔵(よしぞう)園」(船橋市二和2・7・7)では、今年、自分の園で出た規格外の梨や蜜症の梨を使って、梨のドライフルーツ、梨ジュースを委託製造、自社販売へと踏み切った。

 芳蔵園の園主・加納慶太さんはこう話す。「幼いころから、食べられるものなのにたくさんの作物が廃棄されるのを見て、違和感があった。ぼくの大学時代の研究テーマは『6次産業』について。どうしたら廃棄をなくせるのか。今も『廃棄ゼロを目指して』がぼくのテーマです」と話す。

 6次産業とは、農業や水産業などといった第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態のこと。

 慶太さんはこれまでに、生産者仲間と規格外の梨を使った「梨シャーベット」を製造したこともあった。しかし冷凍状態での物流や保存にはコストが思った以上にかかり、シャーベットの製造継続は難しいと判断。ほかの商品を模索しているなか、近隣都市の梨生産者とも情報交換をしながら、今年はジュースとドライフルーツを作ってみたのだという。


芳蔵園のみなさん。後列右が加納慶太さん

市内で加工ができることは最大のメリット

 「芳蔵園」で販売する梨ジャムは、市内の加工所で製造している。食品加工所というと工場のような場所を思い浮かべるかもしれないが、「芳蔵園」が製造を委託している「ふなばし工房」を訪れると、調理室の一室で10人ほどのスタッフが手作業でジャムを瓶詰めしていた。

 ここは昭和46年に設立された社会福祉法人大久保学園の中。障がいを持つ人への就労継続支援や生活介護事業を展開している場所だ。巨峰の皮をていねいにむき、実と皮に分ける作業を黙々とこなす人、流れ作業でジャムの瓶詰めをする人など、班に分かれて作業していた。

 「船橋市内で加工までできるのって、いろんな面で見て、最強だと思う」と加納慶太さん。「生産者にとって、こうしてなんとかしてもらえる場所が近くにあるだけで、廃棄以外の選択肢も見えて心強いです」とも続けた。


上)大久保学園「ふなばし工房」。「味については、ふなばし工房さんにおまかせです」と加納さん。工房の職員・佐々木さんは「梨自体がおいしいので、何に加工してもおいしいです」と話す
下)終始楽しそうに働いていた「ふなばし工房」のスタッフたち

【お詫びと訂正】誌面の中で「大久保学園」に「梨ジュース」の製造を依頼という表記がありましたが、「梨ジュース」の製造依頼先は長野県の加工場でした。関係者の皆様にはご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

間引きなどで採った果実も有効活用

 同工房では外部からの加工依頼を積極的に受け入れている。「一般的な食品加工会社に劣らないクオリティを目指したい」と施設長の渡辺寛之さんは話す。味については職員が研究に研究を重ね、依頼者の意向に添った商品を作り上げていく。

 また、同施設では「規格外の果物や野菜、大歓迎!」だという。例えば、イチゴは成長過程で間引きをしなくてはならないが、その際に採った果実はジャムにして有効活用するという。果実を取る作業も同工房で受け入れ、農園に出向いて採るところから手伝うことも可能なのだとか。

 「人の手がたくさんあるのが当園の強みです。うまく使っていただけたら」と施設長は話す。

飲食店とコラボする形でも

 一方、梨生産者が市内飲食店などとコラボする形で規格外の梨が有効活用されている場合もある。

 フレンチレストラン「ル・カフェ・ドゥ・ポム」(船橋市宮本3・9・1)のオーナーシェフ・松崎雅子さんも「船橋のなし」に魅せられ、加工品を製造・販売するシェフの一人だ。

「もともと料理ではフルーツを使ったソースを使っていたのもあって、10年ほど前からブルーベリーなどのコンフィチュール(ジャム)を作って販売していました。梨を使って作るようになったのは『船芳園』の加納さんと出会ってから」と、梨コンフィチュール誕生のきっかけを話す。

「今年の夏の梨を振り返りながらこの梨を楽しんで欲しい」

 松崎さんは「梨っ娘」「梨のコンフィチュール」という2種類のコンフィチュールを作っている。

 買い取る梨は、基本的においしい「船橋のなし」だが、自然の影響を受けて変形したり、皮の色が少し変わってしまったり、中には多少、蜜症の症状が出ている梨が混ざることも承知のうえで引き受けている。梨の収穫時期にはスタッフ総出で、皮むきから瓶詰めまで、すべて手作業で行う。

 「形はいびつでも、少し潤みがあっても、ひとつひとつと向き合って、生食には向かなかったかもしれないその梨を、手をかけておいしいものに変えています」と松崎さん。「『豊水』にはファンも多い。なのに蜜症が出やすいからって梨農家さんが豊水を作ることを辞めてしまうなんて、悲しいこと。私たちが販売できない梨を商品にしていき、消費してくれる人がいれば、それが梨農家さんを支えることになるのではないかしら」とも続ける。

 さらに松崎さんは、こうも話す。「こうした加工品があれば、寒くなった季節でも梨の味を楽しめる。そのときは、ぜひ『あぁ、今年の夏は梅雨が長かったから豊水があまり置いてなかったね』なんて、そのシーズンの梨を思い返しながら食べてもらいたいんですよ。生産者さんが我が子を育てるかのように、苦労を重ねてひとつひとつ作っている梨のこと、梨が成る過程なんかも振り返ってもらえたら…。そして次の本格シーズンへの思いを馳せながら、加工品を楽しんでもらいたいですね」とほほ笑む。

梨以外にもこんなものが

 made by ふなばし工房

「芳蔵園」で作っているブドウを使ったジャム。巨峰、シャインマスカットと2種類ある。製造は「ふなばし工房」、販売場所は「芳蔵園」


「ふなばし工房」では船橋産のイチゴを使った「ストロベリージャム」をはじめ、柚子、夏みかんなども製造・販売。販売場所は「メグスパ」や近隣の道の駅など

made by ル・カフェ・ドゥ・ポム


船橋産ニンジンとパイナッ プル、ニンジンとミカンと いった組み合わせのコンフィ チュールも製造販売。「本町 にあるコミュニティカフェ『ひ なたぼっこ』さんのブルーベ リージャムも当店で作って いるものなんですよ」と松崎 さん

and more…!
ここに紹介したのは、長期保存できるフルーツ加工品だけでしたが、旬の時期には、野菜を含め、市内生産者と飲食業者がコラボした商品がたくさん出ています。生産者を支える大きな力となっているそうした商品も、その背景を思いながら、じっくり味わいたいものですね!

※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
変更になっている場合もございますので、おでかけの際には公式サイトで最新情報をご確認ください

スポンサードリンク

MyFunaの最新情報はこちらから
関連キーワード