2013年08月01日 配信
夏になると思い出す。
学校が長い休みに入ると、決まって、祖父母の暮らす家で毎日を過ごした。
いわゆる田舎の風景というのではなく、地方都市の一角にある家で、自宅よりもむしろ狭い位の佇まいだったのだが、不思議な安心感とゆったりと流れる時間の中で、ひがな一日、ただのんびりと過ごしていたものだ。
その家はいわゆる「うなぎの寝床」と呼ばれる造りになっていて、二階にあがる階段のある側には、通り庭と呼ばれる部分をひょいと飛び越えねばならず、坪庭には当時はすでに使われていなかった井戸があり、大きく育ってしまったらしい鯉が、窮屈そうに顔を覗かせていた。
祖父母は二人でその家にて仕立て屋を営んでおり、一日中ミシンの音を響かせていたものだ。
私はその音をうるさいと思ったことは一度もなく、時々仕方なく始める夏休みの宿題のドリルも、音が響く中で解いていった。
そして彼らの休日には、バスに乗って出かける。
ただそれだけの夏休み。
私はそこでハッと目が覚めた。
目の前に広がるのは見慣れたいつもの公園だ。
昼食に売店でパンを買い、鳩に分け前を放りながら、水の音を聞いていた。
噴水の水しぶきを見ながら、うとうととしてしまったらしい。
落ち着いてきた心の中に浮かんできたのはあの、祖父母の家とミシンの音。
「会いに行こう。」
照りつける太陽を見上げてそう、思った。
◇宮岡みすみ
昭和43年、船橋市出身
平成19年度船橋市文学賞 「そうして、歩いていく」にて小説部門佳作入賞
読み手の心に希望が残る話を中心に執筆
※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
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