出会った頃は同い年くらいだったね。
新しい夢に向かって歩き始めたばかりの君はいつも小さく震えていた。
不安だったのは僕も同じさ。
ちゃんと君の手を引いて歩けるかな、何か失敗したら僕のこと嫌いになっちゃうかな、って、それは毎日が緊張の連続だった。
でも君が僕の名前を呼んでくれるたびに力が出たんだよ。
僕は君を守るために生まれてきた、君を守れるのは僕だけなんだって。
僕らに行けない場所なんてなかった。
レストランだって美容院だって、そうそう、君が大好きな嵐のコンサートにも行ったね。
君と一緒に歩くことが僕には何より誇らしかった。
僕の少し後ろを歩く君の笑顔を見るのが何よりも好きだった。
いつも明るい君だけど、辛くて悲しいこともたくさんあったことを僕は知っているよ。
君の涙が止まらない夜に、僕は呼ばれてないのにずっと君のそばにいたことを君は気付いていたかな。
僕にはそれしかできなかったから。
もし僕に大きな手の平があったのなら、君の涙を拭ってから、君が僕にしてくれるように、「いーこ、いーこ」って頭をなでてあげるのに。
もし僕がしゃべることができたのなら「僕がずっとそばにいるよ」と言ってあげるのに。
わかってる……僕の仕事は君の目になること。
厳しい訓練をたくさんやってきたけれど、誰も君の涙の止め方を教えてくれなかった。
それができればどんなにいいだろう。あのヒトみたいに
◇深澤 竜平
昭和52年、山梨県生まれ。
2006年、船橋市に転居し翌年から小説創作を開始する。
2011年 「応援席のピンチヒッター」にて「第23回船橋文学賞」文学賞を受賞。
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