2013年03月01日 配信
白猫のマリーは、縄張りのパトロール中に飼い主のサトルを見かけた。
「それでね、うちの孫はもう、あっという間にこーんなに大きくなってね、
ひらがなもすぐに読み書きできるようになってね。可愛いんだよ。」
身振り手振りを交えて夢中で喋る、近所に住むおばあちゃんの話を半分困り顔で聞いている。
「おい、まだこんなところにいたのかよ、遅いぞ!」
そこにサトルの親友、タクヤが彼を迎えに来た。
高校生の二人は共に出かける約束をしている。
「ばあちゃん、ごめん、俺もう行かないと。」
サトルはおばあちゃんに手を振った。
「お前さあ、よくあんな、同じ話ばっかりしているばあちゃんに付き合っていられるよな。」
タクヤは呆れ顔で言う。
「うん、なんかさ、俺のばあちゃんとだぶって冷たく出来ないんだよ。俺、ばあちゃん大好きだったからさ。」
サトルは、既に亡くなった優しかった祖母に思いを馳せる。
「あら嬉しい。私も大好きよ、サトル。」
サトルの後ろから、ぼんやりとした輪郭のおばあちゃんが声をかける。
しかし、二人には見えないし、その声も聞こえない。
だが、猫のマリーには見え、聞こえてもいた。
そして知っている。
サトルの後ろにだけでなく、全ての人の背に、たくさんの見守ってくれる人達がいることを。
◇宮岡みすみ
昭和43年、船橋市出身
平成19年度船橋市文学賞 「そうして、歩いていく」にて小説部門佳作入賞
読み手の心に希望が残る話を中心に執筆
※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
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