2012年05月01日 配信
「ゴールデンウィークなんて無理無理。仕事だもん。じゃ、忙しいから切るよ」
母の応答を待たずに電話を切った。
忙しいなんてうそ。一人でご飯食べて、テレビ見て寝るだけ。
あーそしたら明日が来る……取り込んだばかりの洗濯物が散乱するベッドに横になった。
また、失敗した。もう何度目かなんて聞かれなくてもわかっている。それをあいつったらなの前で……。
「あれ?」
何気なく壁を見ると2cmほどの傷が目についた。
引っ越してまだ1カ月なのに……さてはベッドを搬入するときについたのかもしれない。
あの業者、ずいぶん粗っぽかったから。
立ちあがって確かめようとすると、その傷はちょうど私の目よりちょっと高いくらい。ってことは私の背の高さくらいかな。
壁にぴったりと背中をつけてみた。
小さい頃、毎年おばあちゃん家に行くと、こうやって柱に背をつけて、母に身長を測ってもらったのを思い出した。
ずっと小さいと思っていた弟に抜かされた時は悔しかったっけ。
壁に背をつけたまま背伸びをした。
「まだ、伸びるかな?私」
傷に話しかけるように言ってから指でなぞった。
この傷、いつか見下ろしてやる。
「あーもしもし、母さん。うん、さっきごめん…
…うん、ゴールデンウィークが終わったら帰ろうかな。それでさ、今度あれ教えてよ。がんもどきの煮物、そう、甘いやつ」
◇深澤 竜平
昭和52年、山梨県生まれ。
2006年、船橋市に転居し翌年から小説創作を開始する。
2011年 「応援席のピンチヒッター」にて「第23回船橋文学賞」文学賞を受賞。
※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
変更になっている場合もございますので、おでかけの際には公式サイトで最新情報をご確認ください
スポンサードリンク
MyFunaの最新情報はこちらから