2012年04月01日 配信

市立船橋高校サッカー部が1月に高校サッカー界の頂点に輝いた。劇的な大逆転という試合内容だったこともあり多くの市民が「市船」の優勝に沸き、「市民が一つになった」「船橋市民で良かった」など編集部にも多くの感想が寄せられた。
一方で取材を進めてゆくと「全国優勝のサッカー部なのに市船卒業のJリーガーが誕生しないのは何故?高校サッカーのレベルが下がったの?」という声も聞いた。
編集部では、市船サッカー部優勝の原動力と高校サッカー界の実情について市内の関係各所で話をうかがった。

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ヴィヴァイオ船橋サッカークラブ出身の両選手。見事な足技で相手を翻弄

足技の光る個性的な選手を多数輩出クラブチームによる選手育成

近年の高校サッカー全国大会のパンフレットに記載されているジュニアユース(中学生世代)出身チームを見ると、そのほとんどがクラブチーム出身。 市船の選手も多くがクラブチーム出身だ。ミナトサッカークラブ(鎌ケ谷市)、ヴィヴァイオ船橋サッカークラブ(船橋市)、ジェフ千葉(千葉市)…クラブチームの指導者が先を見据えた選手育成を行っているようだ。

地元のヴィヴァイオ船橋サッカークラブからは、市船サッカー部にも多数の選手が送られている。 選手権で活躍した杉山丈一郎選手(3年)、菅野将輝選手(3年)、渡辺健斗選手(2年)らも同クラブ出身だ。いずれも、個人技に自信のある選手ばかりだがどのように選手の育成を行っているのだろう。

同クラブの設立は1999年。市船黄金期を築き上げた布啓一郎監督の発案により「強いだけでなくサッカーで地域貢献もしよう」と、創設された。

先の世代を見据えキッズから選手を育成、同クラブの指導方針には特徴がある。 目先の勝利にこだわるのでなく、選手がクラブに預けられた期間「どれだけ成長できたのか」「どれだけ先で活躍する可能性を広げる事ができたのか」という点に着目し育成を行っているのだ。

クラブとしての勝利よりも選手の将来を考える「選手育成に特化した職人」がユース(高校生年代)だけでなく、大学やその先であるプロで通用する選手を目指し育成している。クラブ代表で市船卒業生でもある渡辺恭男さんが大切にしているのは「技術」「判断」「イマジネーション」そして「遊び心」。

同クラブOBは、今回の選手権で活躍した尚志高校(福島県)の秋山慧介選手(2年)、金森采輝選手(3年)、川島大河選手(2年)の他、全国で強豪校として名を馳せる香川西高校などにもいる。こうしたクラブチームでの育成を経て全国の大舞台でも物怖じしない選手が育っているのだ。

高校サッカーのスカウト制度を確立良い選手が集まる土台を築いた

市船サッカー部には、全国から多くの選手が集まっている。 「市船」というブランドに惹かれて受験する選手もいるが、監督自らが全国各地を回って選手を実際に見て、声を掛け集めてきた選手も数多いという。布啓一郎監督の時代、部長として選手スカウトの手法を確立した前・市船サッカー部の総監督・石渡靖之さんに話を伺った。

高校卒業後すぐのプロ選手誕生が減っているのは、医療の発達により「選手寿命が延びた」事や、経済の疲弊による球団側の予算削減などが挙げられる。

約20年前のJリーグ創成期、選手数も少なく一定レベルに達する選手は次々とプロ入りを果たした。 しかし、年月を経て「ドーハの悲劇」に泣いた日本代表は、「ワールドカップ出場が当たり前」のチームに変貌を遂げた。それだけ、日本サッカー界全体のレベルも底上げされたのだ。現在、プロ選手には、「技術が高くて当たり前。サッカー理論を身に付けているか。何か光るものを持っているか」などが求められている。高校卒業したばかりの選手は大学でより高いレベルのサッカーを身に付け「大学選抜」「ユニバーシアード代表」など数々の公式戦でしのぎを削り、大人のサッカーを身につけ、さらに高いステージに立ってからプロに挑戦するのだ。

つまり、現在のサッカー界は世界を見据えた選手育成という観点から育成を考えるようになっており、昔と違って高校選手権は一つの目標で、最終的な到達点ではなくなったのだ。既に日本のサッカー界では、目先の勝利だけでなく選手一人一人の将来を見据え、「世界で活躍できる」、「世界と対等に戦える」選手作りが始まっているというのだ。

市船の伝統とブランドとは

2月に古巣「ヴィヴァイオ船橋サッカークラブ」を尋ねた杉山丈選手と菅野選手にインタビューを行った。「何故、クラブチームではなく市船サッカー部を選んだのか」との質問に、「子どもの頃、カレンロバート選手の市船サッカー部を見て『市船で選手権に出たい』と決めた」という。「早くプロになりたい」というのであればJリーグのユースチームに所属するという方法もあったはずだが、彼らは「市船」にこだわったのだ。彼らも来春からは大学生。大学サッカー界で更なるステップアップをしてプロを目指す。

ちなみに、市船卒業後に大学を経てプロにあがっている選手も多数いるが出身が「大学」になってしまうと気が付かれないようだ。

市船の伝統を大切に引継ぎ勝利にこだわった朝岡隆蔵監督、選手の将来を考えてジュニア世代からじっくり選手育成に取り組んできた渡辺代表、サッカー界の先駆けとして市船サッカー部の基礎を築いた石渡前総監督。多くのスタッフが創り上げてきた「市船」ブランドが今回の優勝を導いたのだ。

そして、こういった高校生のセミプロ化という流れはスポーツ界全般に広まってきている。厳しいスポーツの世界でしのぎを削る者同士だから一体感が生まれ、観客席から我が事のように力いっぱい応援をする生徒たちが育つのだろう。

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キャプテンの和泉竜司選手はFC四日市から市船へ。卒業後は明治大学に進学が内定している
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「成長が楽しみな1、2年生がいるから大丈夫。仕組みは引き継がれている」と石渡前総監督は来年以降の市船を語る
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国立競技場だけでなく優勝パレードにも全校生徒が駆けつけ一体感をみせた

※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
変更になっている場合もございますので、おでかけの際には公式サイトで最新情報をご確認ください

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