九月、学校が始まった。
おじいちゃんはスクールガードに毎日出ている。夏休みにクイズ、なぞなぞ問題をずいぶんと作ったらしい。お母さんは、お兄ちゃんとの夏休み宿題戦争が終わってほっとした顔。
土曜日の晩、電話がなった。
「ユキちゃん、お母さんにかわってください」
スクールガードの、西山のおばさんらしくない、にごったような声だった。
「サザンカ公園で、不審者?」と、言ったあと、 お母さんの声がとぎれた。ユキはドキッとした。おじいちゃん、もしかして、夏休み中もサザンカ公園で小学生にクイズ、問題を出していたのかも。
電話を切ったあとのお母さんの目はこわかった。それから、お父さんと何も言わずに二階に上がって行った。
なかなか二人は降りてこない。お兄ちゃんはゲーム機に向かったまま。おじいちゃんは部屋に入っている。テレビの画面だけが変わっていく。
お母さんが踊り場で手招きしている。部屋に入るとお父さんと目が合った。にこりともしない。
「夏休みに、サザンカ公園で小学生に…」
「おじいちゃん、また、外に出なくなってもいいの」
お父さんの話の途中で、ユキは思わずさけんだ。突き上げてくるものがどんどん大きくなってくる。
「子どもに、問題なんか出して、話すのが好きなだけなのに。おじいちゃんが不審者だなんて」
「おじいちゃんにうまく話してほしいの。ユキなら、絶対におこらないから」
お母さんの胸の中でユキは涙を流した。
クイズ、問題は、スクールガードの黄緑色の帽子をかぶって、黄色い腕章をしているときだけだよ。そうしないで話しかけたりすると、おかしなおじさんだと思う子もいるの。いい、おじいちゃん。
ユキはお母さんの柔らかい胸の中でそう考えた。
【筆者プロフィール】
北澤朔(きたざわはじめ)
山形県鶴岡市出身、船橋市在住
1992年『自転車』で第四回船橋市文学賞受賞
著書/『見つめる窓辺』(文芸社)
『黄色い』(日本文学館)
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