2010年05月01日 配信

 おじいちゃんは、五時ちょっと前に帰ってきた。
 
 
「どうしたの、おじいちゃん? すごく心配したんだから」
 ユキがすこし怒ったように言った。おじいちゃんは「散歩だよ」と、言ってニヤッと笑った。かくしごとがあるな…。そんな顔は久しぶり。
 
 
 お母さんが帰ってからも、ユキはおじいちゃんのことはだまっていた。「おじいちゃん、家にいなかった」なんて言ったら、大変だ。夕ご飯どころじゃあなくなってしまう。おじいちゃんのニヤリのためにも。
 
 
 家族全員がそろった夕ご飯が終わる。金曜日なのにお父さんがいるなんてめずらしい。おじいちゃんは自分の部屋に入る前、ユキを見てまたニヤッとした。お父さんはテレビをみている。兄ちゃんは、もうゲーム機に目がいっている。
 
 
 お母さんが、台所からリビングにもどってきた。ユキのとなりでお母さんは何か言いたそう。唇がぴくぴくしている。台所で手伝っているときからユキは気づいている。
 
 
「ユキちゃん、言いたいことがあるでしょう」
 お母さんの口元がぎゅっとしまった。もうだめだ。おじいちゃん、ごめんなさい。ニヤリだけはだまっているから。
 お母さんの声が、お父さんの背中をゆさぶっている。
 
 
「もしかして、おじいちゃん、チホウに…」 
 ハイカイなんてことばも出てきた。ふり向いたお父さんの顔に、まさか・・・とかいてある。お兄ちゃんの手がとまった。
 
 
「あ、思い出した。おじいちゃん、サザンカ公園にいたって。友だちが言ってた」 
「リュウ、それ、ほんとか!」
 お父さんとお母さんの声がそろった。
 

 

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【筆者プロフィール】
北澤朔(きたざわはじめ)
山形県鶴岡市出身、船橋市在住
1992年『自転車』で第四回船橋市文学賞受賞
著書/『見つめる窓辺』(文芸社)
     『黄色い』(日本文学館)
 
 
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