僕はずいぶん年をとった。
長く歩いた時は足も腰もしんどくなるし、目もしょぼしょぼする時がある。
え? そんなの全然わからないって?
それは君の前では不思議とがんばることができるからだよ。
誰でもそうさ、好きなヒトの前ではねっ。
でもね、もし僕が歩けなくなっても心配いらないよ。
だって君は一緒に歩いていくヒトを見つけることができたんだから。
今日は君の新しい旅立ちの日。
白いウェディングドレスの君はとても幸せそう。
教会の扉が開いた。
君の姿を見つけた僕は反射的に立ち上がろうとして、また座った…
今日は僕の出番はないんだっけ。
まっすぐ続く道の先にはあのヒトが待っている。
おっちょこちょいだけれど誰よりも君を優しく包んでくれるヒト。
僕なんかよりもずっと大きくて強い手で。
お父さんに手を引かれ君はしっかりと歩みだす。
途中であのヒトが君の手を取った。
これから先はあのヒトが君の手を引いて歩いて行くんだ。
ゆっくり、ゆっくりでいいからね。
なにがあってもそのヒトの手を離してはだめだよ。
ちょっと悔しいけれど、僕の片思いは今日で終わりにします。
その時、君は立ち止まって、僕の名を大きな声で呼んだ。
僕は突然のことに面喰っていると君はもう一度僕の名を呼んだ。
君の手が僕を探している。
僕はうれしくなって天井に向かって思い切り返事をした。
―今、いくからね。
◇深澤 竜平
昭和52年、山梨県生まれ。
2006年、船橋市に転居し翌年から小説創作を開始する。
2011年 「応援席のピンチヒッター」にて「第23回船橋文学賞」文学賞を受賞。
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