2012年03月01日 配信

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卒業式で一番最初に泣いたのはあなただったね。真面目を絵にかいたようなあなたは、クラス中が笑いで溢れかえってもいつも冷静というか無愛想だったのに、顔を真っ赤にして涙をぽろぽろこぼすものだから周りは驚いていたんだよ。そんなあなたのことが私はずっと好きでした。

一人だけ遠くの高校に行ってしまうあなた。私が意を決して第二ボタンをせがむと、あなたはいつもの冷静な顔に戻って「形見みたいで嫌だ」って言った。「僕は生きているんだから、 また会いましょう」って。

―あれから何年経っただろうね。
「このネクタイ、派手じゃない。こっちの方がいいかな?」
「何でもいいじゃない、あなたの卒業式じゃないんだから」
鏡の前でネクタイを何度も結び直すあなたはあの頃のまま。だいぶお腹は出たけれどあの頃の真面目なまま。
「パパ、ママ、早くしないと遅れちゃうよ。私の無遅刻記録を卒業式の日にダメにする気?」
真面目なところはあなたそっくり。

あの子ったらね、好きな人がいるみたいでね、昨日、真剣な顔でブレザーの場合も第二ボタンでいいのかな、って聞いてきたの。

だから私は言ったのよ、ボタンなんてみみっちいこと言わずに、その人ごとかっさらっちゃえばって。

それであの日のあなたのこと思い出してたの。今日もたくさん泣いちゃうんだろうな。ね、あなた。

深澤 竜平
昭和52年、山梨県生まれ。
2006年、船橋市に転居し翌年から小説創作を開始する。
2011年 「応援席のピンチヒッター」にて「第23回船橋文学賞」文学賞を受賞。

※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
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