2010年12月01日 配信

クリスマスが近い。

 

 

夕食のとき、おじいちゃんがニコニコしている。何かいいことでもあったのかな。

おじいちゃんは、ときどき上着のポケットに手を入れる。食卓についたときから、ユキはずっと気にかかっていた。おじいちゃんは何か言いたげだ。ユキと目があった。

 

 

「クリスマスプレゼントをもらった」

「だれから?」

 

 

 真っ先に聞いたのはお兄ちゃん。おじいちゃんにプレゼントあげる人? 思いつかないなあ。お母さんでなければ、私しかいないのに。お父さんはありえない。ユキはじれったくなった。

 

 

「ね、だれからなの」

「これだ」

 

 

おじいちゃんの手のひらに小さなものが三つ。

 

 

「え、それだけ」お兄ちゃんは大げさだ。

「風邪を引かないようにって、やたらと声のでかい男の子が、学校帰りにくれた」

 

 

デカゴエも、いいところある。しかし、のど飴三個とはね。でも、ユキはちょっぴりデカゴエを見直した。

 

 

「もうひとつ、あるよ」

 

 

 出てきたのは、一目でわかるクリスマスのメッセージカード。さっと横取りして、読み出したのはお兄ちゃん。

……いつもスクールガードありがとう。からだに、きをつけてがんばってください。かえりのクイズ、たのしいです。 

 

 

2ねん3くみ……

 

 

「おじいちゃんの、小さい恋人からだ」

「小さい恋人か。うまいことを言うなあ。リュウは」

 

 

 お父さんは妙に感心している。お兄ちゃんは得意顔だ。

 

 

「からかっちゃあ、かわいそうだよ」

 

 

 ユキが怒ったように言う。

 

 

「スクールガードで小さい恋人たちにたくさん会うから、おじいちゃんは元気になったのね」

 

 

 お母さんがうなずきながら言った。

おじいちゃんは、照れくさそうにカードをそっとポケットにしまった。

ユキはみんなの笑顔を見てなんだかうれしくなった。

 

 

 

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【筆者プロフィール】
北澤朔(きたざわはじめ)
山形県鶴岡市出身、船橋市在住
1992年『自転車』で第四回船橋市文学賞受賞 
著書/『見つめる窓辺』(文芸社)
『黄色い』(日本文学館)

※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
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