夏休み。
おじいちゃんのスクールガードもお休み。
ユキはおじいちゃんといっしょに、近くのスーパーマーケットまでおつかい。近所で評判の、ジャンボひまわりが、まだ高い日の光に胸を張っている。
店に入ると、いきなり後から声がした。
「あっ、スクールガードの、クイズのおじさん」
ふりむいたのはおじいちゃんだけ。ユキはお母さんの買い物メモを見ているふり。ばかでかい声が店内中にひびきわたりそう。
「おじさん、問題だしてよ。むずかしいの」
こんなところで、デカゴエのやつ。やめてよ。おじいちゃん、まさかださないよね。
「ひとつなのに、せん。ひとつなのに、まん。なんだかわかるかな?」
デカゴエは、ためいきもでかい。両方とも食べ物でしょうよ。ふりむくと、授業中よりしんけんなデカゴエの顔が見えた。ユキは逃げ出したくなった。
パン売り場まで来ると、おじいちゃんがいつの間にかそばに立っている。目が勝ったと言っている。
「あの子、降参こうさんだってさ」
「やっぱり。せんべいもまんじゅうも人の三倍くらい食べそう」
ユキが笑いながら言うと、今度はかわいい声が。
「なぞなぞおじさん、こんにちは。学校始まったら、帰りに問題おねがいします」
おじいちゃん、スクールガードの人気者になったね。
帰り道、おじいちゃんはユキを抜きそうな足取り。ユキも早足になる。おじいちゃんもまけじとついてくる。レジ袋がゆれている。
ジャンボひまわりが見えてきた。おじいちゃんの足が急にとまった。
「ユキ、夏休みはいつまでだ?」
「やだあ、おじいちゃん。三回目だよ、それ聞いたの。まだ八月になったばかりなのに」
「そうか、まだまだか…」
急に小声になった。
【筆者プロフィール】
北澤朔(きたざわはじめ)
山形県鶴岡市出身、船橋市在住
1992年『自転車』で第四回船橋市文学賞受賞
著書/『見つめる窓辺』(文芸社)
『黄色い』(日本文学館)
※この記事に記載の情報は取材日時点での情報となります。
変更になっている場合もございますので、おでかけの際には公式サイトで最新情報をご確認ください